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この人に聞く IPv6

将来に安心感を与える そんな環境がIPv6ネットワークを広げていく。

サーティフィケーションWG 副主査・TAHI プロジェクトリーダー 宮田 宏氏

サーティフィケーションWG 副主査
TAHI プロジェクトリーダー
宮田 宏氏

IPv6 普及・高度化推進協議会サーティフィケーションワーキンググループ副主査・TAHIプロジェクトリーダー・横河電機株式会社ネットワーク開発センターマネージャ 宮田 宏氏

IPv4ですでに構成されてしまったインターネットをIPv6に転換する。それには、何よりもまずユーザーにストレスを感じさせないということが肝要でしょう。ユーザーが安心して買える、買ってきたらすぐ使えるという環境を提供するにはどうすればいいのか。そんなことを日々考えつつ、IPv6へのスムーズな転換のための仕様決定や技術サポートに力を注いでいるのが、TAHIプロジェクトやサーティフィケーションワーキンググループ(以下WG)において技術面を主導する宮田 宏氏です。

最初からつかえ投げればいけないという至上命題を課せられたIPv6

 

どんないきさつでTAHIプロジェクトはできたのですか?

宮田氏

 1998年4月にWIDEプロジェクトの中にKAMEプロジェクトができて、IPv6のコードを開発して世の中にフリーで提供しましょうという活動が始まりました。そのコードを品質面でサポートするために、約半年後に立ち上がったのがTAHIプロジェクトなんです。最初はそういう活動をしていたんですが、しばらくしてKAMEのコードが各種BSD系のOSに取り込まれるようになって品質的にも安定してきたので、今はTAHIの軸足を、機器を開発するベンダー向けに少しシフトしています。最終的には、広い意味でのユーザー(サービス提供者とエンドユーザー)が安心して機器を購入できるような、その時の指標となるようなテストツールを開発したいと考えています。

 

なぜ、TAHIのようなプロジェクトが必要とされているのでしょうか?

宮田氏

 IPv4のインターネットというのは、研究者仲間の小さなスケールから始まって、徐々に徐々に大きなスケールへとトライ&エラーを繰り返して、今のように誰もが利用できる社会的なインフラに成長してきました。IPv6は、そのもうできあがった後のインフラに適用されるわけです。いきなりIPv6を持ってきても、それが本当に使えるものかどうか分からない。けれども、ユーザーは当然使えるものだと期待してしまっている。ですから、IPv6ではIPv4のようなトライ&エラーを繰り返すという成長過程はもう望めないのです。機器を購入した時点から、IPv4と同等かそれ以上に安定したネットワーク環境が実現されなければいけない。そういうクオリティの高いネットワークや端末が世の中に確実に出回っていくように、普及の初期段階から検証ツールを開発して提供するというのが、私たちに課せられた役割なんです。

 

検証ツールの開発・提供は、具体的にどのようなことが行われるのですか?

宮田氏

 IPv6の検証には、仕様適合性検査と相互接続性検査の2種類があります。仕様適合性検査というのは実装したIPv6が仕様に準拠しているかどうかを検証するテスト、相互接続性検査は2つの機器がお互いに通信できるかどうかを確認するテストです。医者と患者にたとえると、仕様適合性検査はちょうど医者が患者を診察するようなもの。医者(テストツール)から患者(IPv6機器)へあるパケットを送り、それに対する正しい答えが返ってくるかどうかを確認します。TAHIはそのテストツールを開発・配布していて、このツールは自由にダウンロードして使っていただくことができます。これに対して相互接続性検査は、患者と患者がお互いに異常がないかどうかを確かめあうというもので、患者(IPv6機器)同士が接続して通信します。TAHIは、その手順や条件を明確にしたシナリオづくりや、年1回のテストイベントを行っています。

IPv6レディロゴ策定に貢献したTAHIとサーティフィケーションWG。

 

IPv6の仕様や検証、認証にはTAHIのほか、IPv6普及・高度化推進協議会(v6PC)、IPv6ロゴコミッティ(v6LC)といったさまざまな団体が登場します。そのそれぞれに宮田さんはコミットされているわけですが、役割の違いは何でしょうか?

宮田氏

 協議会の中にサーティフィケーションWG(CERT WG)があって、ここでIPv6認証のための基準づくりをしています。TAHIはこのWGにノウハウを注入して技術的サポートをしているわけです。一方、国際組織にIPv6フォーラムというのがあって、その中のIPv6ロゴコミッティによって策定されたのが、世界共通のIPv6レディロゴです。この策定に、われわれサーティフィケーションWGとTAHIが成果物の注入や技術サポートを通して大いに関わっているというわけです。特にフェーズ1に関しては、仕様のたたき台をつくったのはわれわれですし、テストツールもTAHIがつくったもの以外にはないんですよ。

IPv6認証活動の連携について(新しいウィンドウが開きます)

画像をクリックすると拡大画像がご覧いただけます。

 

というと、TAHIの活動は認証のためのサポートがメインということになるのでしょうか?

宮田氏

 いいえ、TAHIの活動はそれだけに留まりません。IPv6の標準仕様はIETFが発行するRFCに書かれていて、『MUST』、『SHOULD』、『MAY』の3種類の表現が使い分けられています。『MUST』はコミュニケーションするために絶対欠かせない機能、『SHOULD』はなくてもいいけれど、あるともっと便利だという機能、『MAY』はあまり使われないかもしれないけれど、便利な機能です。サーティフィケーションWGやロゴコミッティでは、全ての機器が共通して持たなければいけない機能という考え方をしますので、議論になるのが『SHOULD』の部分です。実際の利用シーンで本当に必要なのかどうかを検討するわけです。ところが、世の中には特殊なシチュエーションで利用される機器を開発しているベンダーもたくさんあります。そこでTAHIではこういった人たちのために、認証テストだけではカバーし切れない、『SHOULD』の部分も含めた項目のテストも用意しているのです。

IPv6なら、確実にやさしい世界が構築できる。

 

現在、IPv6ロゴコミッティではレディロゴのフェーズ2を策定中とのことですが、それによってIPv6の拡張機能の仕様も固まり、世の中に安心して使えるIPv6機器が出回ってきたとします。そうなると、どんな“良いこと”が待っているのでしょうか?

宮田氏

 いい古されたことかもしれませんが、ネットワークということを意識せずに、いろいろな機器が有機的に融合していく。お互いに関連しながら動いていくシステムができていくんじゃないでしょうか。
 私はIPv6の活動を始めた頃にちょうど家を建てたんですが、その時ネットワークで家のロックシステムができたら便利だなと考えました。外出先からロックを確認できたり、家の中の様子を見たり、寝る前にボタン1つで家中のロックができたり…。今ではそういうシステムも実現されていますが、それでも、たとえば携帯電話で家のカメラにアクセスしようと思ったら、IPv4に変換されて中に入って行かざるを得ないんです。家の中のいろんな場所にカメラを置いても、IPv4だと1つのアドレスしか使えませんから、特別な設定をしない限り家中を見て回るということができない。その点IPv6なら、カメラを買ってきてプチッとつなげば、おのおののカメラがアドレスを持っていますから、携帯電話から直接家の中に入って自由にアクセスできるのです。IPv6のほうが確実に、よりやさしい世界を構築できると思います。
 IPv6を使って何ができるかではなくて、こんなことができたらいいなという新しい発想が湧いてきた時に、たまたまIPv6という意外と使える技術があったので、それを使えばいいんじゃない、という話ですよね。

 

新しい発想のヒントは何かありますか?

宮田氏

 今ハードディスク付きのDVDが売れていますけれど、あれなんかは今までの概念をはずしたところで勝負していますよね。ビデオだと、テープの録画していないところを探して、テープの残量を計算して初めて録画できるんですが、DVDならそんなことはお構いなしに、とりあえずハードディスクに録画しておける。こういうものだと、外からアクセスして録画しようかなという気になるんですよね。単純にメディアをハードディスクに変えただけなのに、全然違うところで効果が増幅されて出てきている。ネットワークにつなぎたいものが新しくできているわけですね。「冷蔵庫や電子レンジをつないで使うかなぁ?」という議論よりも、こういうところから新しい道が開けてくるんじゃないでしょうか。

サーティフィケーションWG 副主査・TAHI プロジェクトリーダー 宮田 宏氏

これまでの常識にとらわれない新しい発想がビジネスを生み出す。

 

具体的にはどんなことが想定されますか?

宮田氏

 たとえばクルマに関していうと、クルマが走る道具であると同時に情報を採る道具にもなり得るということがあります。クルマのセンサー化ですね。まだ仕様を検討している段階ですが、モバイルIPのほかにNEMO(Network Mobility)があります。NEMOというのは、クルマを1つのネットワークと見なして、そこにエンジンやブレーキ、ワイパーといったいろんなデバイスがアドレスを持ってぶら下がっている状態で、そのネットワークが移動するという考え方です。このメリットは、ネットワークの入口になる機器だけがモバイル対応していれば、ぶら下がるのは普通の機器でよく、移動中でも同じアドレスで通信し続けられるということです。こういうことができると、クルマの異常を素早くキャッチしてメンテナンスに役立てることもできるでしょうし、クルマ以外のもっとほかの情報を吸い上げることもできるでしょう。
 もういろいろな研究が進んでいますが、渋滞情報はもちろん、天気図をつくろうという発想もあるんです。タイヤの回転数の違いでスピンしているかどうか確認できるので、どこが雪なのか雨なのか、そこまで分かるというわけです。クルマをセンサーとして利用するというのは、まさに新しい発想ですよね。そういう発想をもった人が、新しいビジネスを生み出したり、より楽しい生活を実現していけるのだと思います。

 

機器と機器がつながるというよりも、思いもよらない「こと」と「こと」がつながっていくという感じですね。

宮田氏

 そうですね。「もの」と「もの」じゃなくて、事象というかことがらがつながっていく。いい表現なので、使わせてもらいましょう(笑)。今、「もの」と「もの」が安全につながる環境を提供するm2m-xというプロトコルが提案されていますが、もしかしたら、こととことがつながるk2k-xというのがあってもいいかもしれませんね。
 そういう近未来に来るであろう楽しい生活を享受するには、ユーザーが安心して機器を買ってすぐ使えるという安定した環境が提供されなければいけません。そのためにも、われわれとしてはもう少しマーケットを見ながら、ユーザーやベンダの声を聞き、社会に必要とされている技術を取り上げると言うようなアプローチをしていきたいと思っています 。

TAHIプロジェクト(新しいウィンドウが開きます)
http://www.tahi.org
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