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この人に聞く IPv6

ベストエフォートでユーザーオリエンテッド、インターネットが新しい文化をつくる。(後編) 前編へ後編

慶應義塾大学環境情報学部教授 中村 修 氏

インフラとしてすっかり定着してきたインターネット。もうインターネットのない生活に逆戻りできないと思う人も多いのではないでしょうか。なぜ、これほど発展してきたのか。これから先、どう進んでいくのか。日本のインターネットの創成に関わり、その後も常にこの世界をリードしてきた慶應義塾大学・環境情報学部教授・中村修氏のお話を前編に引き続きお届けします。

慶應義塾大学環境情報学部教授 中村 修 氏

慶應義塾大学環境情報学部教授
中村 修 氏

情報空間とRFIDが、これからのインフラになる。

仮想空間と実空間が関係を持ち始める

 

では、これから先、ネットワークはどうなっていくのでしょう?

中村氏

 情報空間とRFID(お知らせ5)が、これからの世界のベース、インフラになるだろうと考えています。
ネットワークには、コンピュータも携帯電話もPDAもカメラもつながりますし、このまま行けばすべてのものがつながる時代がやがてやってきます。さまざまな情報がネット上で処理されますが、それは仮想空間(サイバースペース)でのことです。これからは、今われわれが生きている実空間と仮想空間がもっと関係を持たなければいけないと思うわけです。たとえばSFの攻殻機動隊(お知らせ6)のように、普通の人間がサイバースペースに知識を持っていき、それと連動しながら実空間でも生きていて、物陰に潜む犯罪者を見つけたりするといった世界。今われわれが住んでいるこの空間と今までつくってきた仮想空間が一緒になって、一つの情報空間になるという世界です。
 そのとき重要になってくるのが、実空間のものをいかに識別して情報空間に渡すかということです。RFIDはその橋渡しとして脚光を浴びているわけです。

SFの世界が現実になる

 

そういう世界では、たとえばどんなことができるのですか?

中村氏

 ほとんどSFの世界ですよ。それが現実化されると思っていただければいいかと思います。実空間のものを識別できるということは、私が今どこにいるかを全部トラッキングできますから、たとえば駅を出たという情報を家が知って風呂を沸かし、私が玄関の前に立つと「ご主人様お帰りなさい」といって鍵を開けてくれたり、あるいは、食事をしようとすると今日の献立は何カロリーで、「カロリー摂り過ぎですよ」などといってくれるかもしれません。また、外出先で急に倒れる人がいて危険な状態になったとしても、ちゃんと回りの環境がそれを見つけてくれて誰かがすぐ駆けつけてくれるとか、そういうわれわれを快適・安全に生活させてくれる情報空間ができてくるでしょう。すべてが識別されて、すべての関係が情報空間と結びつけられたら、何でもできちゃいますよね。大きなお世話もあるかもしれないですけど。
 世の中にはそういうことを嫌がる人もいるかもしれませんが、人間には柔軟性があるので、うまく適応できていくと思います。その中で新しい文化ができてくるでしょうし、また古い文化は古い文化で、その意味なり、良さが見直されていく。メールや携帯電話がこれだけ使われるようになっても、やっぱり会って話さないと心が通じないと思うのと同じです。

使い方はユーザーが開発してくれる

 

少し時間を戻して、SFの世界になる前にできることは何でしょう?

中村氏

 私が流通関係でRFIDの共同研究を始めた時に、まず最初に考えたのが冷蔵庫です。冷蔵庫にRFIDリーダーがついていれば、中に何が入っているかが一目瞭然でわかります。冷蔵庫に限らず、家にあるものの在庫や状態などの情報を携帯電話で受け取ることができれば、外出している時もすごく便利ですよね。商品のRFIDタグは流通の人たちがつけると言っているので、リーダーさえつければ、そんなアプリケーションはいくらでもできるわけです。
 それと、これはジャストアイデアですが、家の中の家電同士がPLCでつながるようになれば、いろんなことができるようになります。たとえば、電子レンジやエアコン、冷蔵庫、アイロンなどを一度に使ってブレーカーが飛びそうだというようなときには、家電同士が勝手に消費電力の合計を計算して、飛ばないよう調節してくれるとかですね。
  「前編」でお話したように、エンドユーザーがいくらでも新しい使い方(アプリケーション)を開発してくれるのがインターネットの世界ですし、インターネットがここまで発展してきた理由でもあります。ところが、身近な存在であるはずの家電がインターネット上で今ひとつブレークしません。それはなぜかというと、エンドユーザーがアプリケーションをつくれないから。すべてをオープンにする必要はないのですが、ユーザーがふと思いついたときにアプリケーションを自分でつくれるようなインターフェース(API(お知らせ7))が用意されていれば、今までとは全然関係ない使われ方も出てきて、中にはすごく面白いものができるかもしれません。

ベストエフォート(※8)主義で行こう

 

新しいインフラができるためには、何が必要だと思われますか?

中村氏

 システムとしての信頼性が重要だと思いますね。かといって、必ずしも100%の性能を求めているわけではないのです。たとえば今スーパーのレジで使われているバーコードにしても、1回で読み取れなければ、レジの人がいろいろ方向を変えて読み取らせようとしますし、それでもダメなら数字を打ち込みます。バーコードは、そういう意味でシステムとして完成しているから不信感なく受け入れられるんです。RFIDも同じで、単体としての技術はできてきたので、システムとしての信頼感をつくる努力が必要だと思います。
 技術というのは、何でも100%を目指すのは厳しいですよね。それよりも、100%に足りないところは別のテクノロジーや運用でカバーする。そのほうが費用対効果も高いと思うのです。
 インターネットの世界は、ずっとベストエフォートでやってきましたが、これだけ多くの人に受け入れられたということは、それだけ信頼性があり、使いやすいインフラだということでしょう。携帯電話にしても、回線が混んでつながらなくても誰も驚かないし、それで携帯電話を使うのをやめるという人は誰もいません。つながらないのは仕方がないくらいの感覚です。インターネットによってベストエフォートが浸透し、すっかり文化が変わってしまったのです。ですから、RFIDもPLCも家電も何もかも、目指すべきはベストエフォートなんですよね。
 たとえば、インターネットには違法コピーの問題があります。それをすべて技術で解決しろというのは間違っていると私は思うんです。違法が起こるのはインターネットに限った話ではないし、利用者のモラルだとか法律だとか社会システムを含めて考えなければいけない問題のはずです。また、そうやって社会のさまざまな問題を解決し、生活を守ってきた人間の長年の知恵もあるはずです。インターネットに限らず、あまり多くを技術だけに求めては、技術は停滞してしまいますね。エンジニアの立場で言うと、常に100%を求められるとひるんで新しい発想ができなくなってしまう。そうなったら技術の進歩はないと思います。100%を技術に求めるのではなく、技術と社会システムがお互いに補完しあっていく。そうすることで、新しい人間社会が形づくられていくのではないでしょうか。

お知らせ5  Radio Frequency Identification
微小な無線チップにより人やモノを識別・管理する仕組み。流通業界でバーコードに代わる商品識別・管理技術として研究が進められてきたが、それに留まらず社会のIT化・自動化を推進する上での基盤技術として注目が高まっている。パナソニックのRFIDはこちら。
お知らせ6  攻殻機動隊
士郎正宗原作のSFコミック、アニメ。近未来の情報ネットワーク化が進んだ電脳社会で犯罪の芽を捜し出し、それを除去する組織、公安9課の活躍を描いた物語。
お知らせ7  Application Program Interface
OSやミドルウェアなどの形でまとめて提供される、ソフトウェアが共通して利用する機能。個々の開発者は規約に従ってその機能を「呼び出す」だけで、自分でプログラミングすることなくその機能を利用したソフトウェアをつくることができる。
お知らせ8  ベストエフォート
その場の状態によって提供される性能や品質が変化するタイプの技術やサービスを表す言葉。「性能や品質は保証しないが、可能な範囲で最善を尽くす」という意味で用いる。
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