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この人に聞く IPv6

センサーネットワークが地球を覆う。地球コンピューターの時代になってきた。

奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 教授 砂原 秀樹氏

かつては家電製品に組み込まれるものくらいに思われてきたセンサーが、インターネットでつながりネットワーク化されることによって、役割を大きく変えようとしています。意外なものがセンサーとなったり、思いがけないところで利用が進んだり、リアルな世界の情報がインターネットを駆け巡ることによって、何が可能になるのか。Internet ITS(お知らせ1)や環境センシングプロジェクト「Live E!(お知らせ2)」などでセンサーネットワークの最先端を行く奈良先端科学技術大学院大学・情報科学研究科教授の砂原秀樹氏にお話をうかがいました。

奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 教授 砂原 秀樹氏

奈良先端科学技術大学院大学
情報科学研究科 教授 砂原 秀樹氏

やりたいことと、できることがバランスし始めた

 

今センサーネットワークが非常に注目を浴びています。インターネットの進展が何らかの影響を与えているとしたら、それはどのようなことでしょう。

砂原氏

 やりたいと思っていたことがやっとできるようになった、というのが私たちの本音です。それでセンサーネットワークががぜん面白くなってきたのだろうと思っています。
 インターネットというのは、同じ伝達するための共通基盤でも、これまでの手紙や電話、放送といったネットワークと違って、デジタル技術が使われています。デジタルでは、すべての情報が数字に置き換えられますから、デジタルの共通基盤を使えば文字も音声も映像も、何でもその上に乗せて運ぶことができます。この十数年でそんな共通基盤が地球をほぼ覆ってしまったのです。もともとはコンピューターをつなぐために作られたインターネットですが、今やまわりを見回せば何にでもコンピューターがついています。センサーもそうで、さまざまなセンサーをつなぐことができるようになったわけです。
 たとえば、世界中で雨の降っている様子がわかればわかるほど、正確な気象予測ができるはずです。それが実はやりたいことであるはずなんですが、アメダス(AMeDAS)(お知らせ3)は十数キロ四方に一つずつ、日本全体で1300カ所にしかありませんし、残念ながら今までは通信網がなくてそれができませんでした。ところが、これだけインターネットが行き渡ってくると、どこでもネットワークが使えるので、温度計や湿度計、雨量計といったセンサーを簡単に何万カ所と置けるようになったのです。
 もちろん、インターネットだけでなく、太陽電池や無線LAN、センサーの技術も揃ってきたという背景もあります。さらに言えば、みんなが使うことでコストダウンが図られ、誰でも使えるようになったというのも大きな要素です。「できるだろう」と思っていたことが本当にできる状態になった。それが、センサーネットワーク界を勢いづかせているのだと思います。
インタビュー中の砂原氏

一つの情報は意味がなくても、集まれば価値を生む

 

具体的には、どんなことができるようになったのですか?

砂原氏

 そもそものきっかけは車だったんです。ちょうど、インターネットの仮想の世界にどっぷりつかるのではなく、何か現実の世界に即した情報を取り扱いたいと思い始めた頃でした。車をインターネットにつなぐわけですが、ただ単に車の中でWebページを見たり、電子メールを読んだりしてもつまらない。車にはたくさんのセンサーがついているので、この情報を集めたら何かできるんじゃないかと考えたわけです。
 すると村井さん(お知らせ4)が「ワイパーというのはすごいセンサーだ。人間が雨の降り具合を見て、ワイパーをどのくらいの頻度で動かすかを判断してるんだよ。こんなに確度の高い情報なのに今は捨てられている。それを集めたら面白くないか」と言うんです。スピード情報を集めて渋滞情報を作るのは、誰でも思いつくことですが、それは車のための情報を作るだけのこと。けれども雨の情報は、車とは全然関係ない情報なんです。「それは面白い、やろう」と始めたのが1996年のことでした。
 最初は数台で始めたんですが、そのうち横浜のタクシー会社の協力を得て300台の車のワイパー情報を収集できるようになりました。そうすると、1キロ四方のどこでどれぐらい雨が降っているか、時間を追って変化していくのがわかったんです。これを発表したら、「この情報はどこで入手できますか」と、気象予報会社から電話がかかってきました。こういう情報から、たとえば明日横浜球場で雨が降るかどうかといったピンポイントの予測が可能になるというんです。ワイパーを動かすという一つ一つの情報は意味がなくても、それをたくさん集めることによって価値が生まれるわけですね。
 渋滞情報も同時に作ったんですが、こちらは交通流(お知らせ5)の専門家と出会うことによって、これまでなかなか取れなかった細い道の右折渋滞など精度の高い情報も出せるようになりました。結局2001年には約2000台のタクシーで実験をしました。こういうことは、やってみて終わりではなく、きちんと評価してもらって仲間を増やしていくことが大切だと思うんです。情報を必要としている人たちやプロの人たちとの出会いの中で、「こんなことにも使える」「じゃあこんなふうにやってみよう」というさまざまなアイデアが生まれ、そしてビジネスにもつながっていくのだと思います。

センサーを使えば、自然な動きで物を管理できる

 

センサーではないようなものをセンサーに使うというのは面白いと思いますが、カメラもその一つといえるでしょうか?

砂原氏

 カメラはセンサーとしてものすごい情報量を持っています。たとえば、ある色情報だけを取り出して特殊な処理をすると人の追跡ができるとか、赤外線で撮ると温度分布がわかるとか、カメラを一つつけるだけで情報量は飛躍的に増えるのです。それで、カメラを使えば、単純なセキュリティシステムではない、新しい何かができるんじゃないかと考えて、非接触型ICカードとカメラとRFIDタグを利用した図書館システムを作ってみたんです。
 ICカードで開錠して図書館に入館すると、あとは自由に本棚から本を持っていってもいいという仕組みです。本にはRFIDタグがついているため、本棚からどの本がなくなったかわかりますし、カメラが人の動きを把握するため、持っていったのがその人に間違いないことが確認できます。そうすると、人間の自然な行動の中で、物の管理ができるようになってきます。センサーをうまく使っていくと、人を追跡しながら物の管理、情報の管理ができるのではないかと考えています。
 たとえば薬の管理があります。病気になると薬をきちんと飲むことが非常に大事で、それで症状が緩和されたり早期に治癒できたりします。けれども、時には薬を飲み忘れたり、飲んでいても種類が多いとどの薬を何錠飲んだか分からなくなるといったことが起こります。RFIDタグで管理しても、薬は飲むものですから一錠一錠までは管理できません。そうしたときに普段からカメラで画像を撮っておくと、薬を飲んだという確証を得ることができます。飲んだかどうかを行動監視しながら薬の管理ができるのではないかと思います。

インターネットがバリアを下げ、IPv6が自然の流れに

 

可能性がどんどん広がっていきますね。

砂原氏

 大学で教えていると、時々思いもよらない発想をする学生がいます。たとえば、携帯電話についているマイクとGPSで、周りの音の大きさとその場所の位置情報を集めたらどうかと。人が集まっている場所は面白そうなので、その場所がわかって、それとネット検索やブログを組み合わせれば、何かできるのではないかと言うんですね。そういう自由な発想があるときに、いろいろやってみることができるようになったのです。インターネットは、そういう意味で本当にバリアを下げ、可能性を広げるものだと思います。
 そうすると、何でもつながってきますから、IPアドレスがほぼ無限にあるIPv6でやるしかないという話になってきます。私たちからすると、IPv6は自然な流れなんですね。コンピューターだけでなく、センサーもつなぎたい、もっと違うものもつなぎたいというのであれば、IPv6のほうがいいに決まっていますから。
 今後ますますセンサーネットワークは広がっていくでしょう。そのとき、プライバシーをどう守っていくかも大きな問題です。カメラもそうですが、センサー情報というのはリアルな世界と密接につながっているだけに、情報の扱い方をきちんと議論し、世の中の人たちの理解を得ていく必要があると思っています。

RiSuPiaで体験中の砂原氏1RiSuPiaで体験中の砂原氏2

RiSuPia(お知らせ6)で体験中の砂原氏。「コンピューターに興味をもつのではなく、理科や数学に興味をもたないと新しい発想は生まれてこないんですね」

情報が徐々に集まっていくアーキテクチャ

 

これから先、センサーネットワークはどういう方向に進んでいくのでしょうか。

砂原氏

 Live E!でもそうですが、センサーの数が増えていって情報量が膨大になっていくと、すべての情報を一つのデータベースに集めていては、だんだん処理が追いつかなくなってきます。そこで、一度に全部集めるのではなくて、少しずつ集めたデータを小分けにして置いておき、必要な時に必要な情報だけを取りにいけるようなシステムを考えています。だいたいみなさんが必要とするデータは直近のものが多いのです。ですから、その分だけをどこかにストックしてすぐに使えるようにしておき、それが徐々に集まっていって最後に巨大なデータベースに入っていくというふうにします。こうすれば、時間がたったデータを使った時系列分析もできるでしょう。また、少しずつ集めると、隣のデータが来ないとか、壊れているといったこともすぐに分かります。そうすると、単にデータを集めるだけでなく、どこに異常があるかなどセンサーネットワークの管理もできるようになるわけです。
 インターネットというのは本来、情報をどこか1カ所に集めてそれをみんなで使うというものではなく、必要とする情報をそれが存在するところにとりに行くというもののはずなんです。1カ所に集めようとすると、巨大なコンピューターが必要になってくるし、莫大な費用もかかります。それが、もう少し薄く広く置けるような時代になってきたかなという気がしています。センサーもコンピューターもネットワークも地球上をずっと薄く皮みたいに覆っているようなイメージですね。地球コンピューターとか地球規模コンピューティングというふうに言ってもいいいでしょう。そうすると、どこに行っても同じことができるし、どこにいても何でもできるようになります。そういうところまで来たのかなと思っています。

お知らせ1  ITS:Intelligent Transport Systems(高度道路交通システム)
最先端の情報通信技術を用いて人と道路と車両とを情報で結ぶことにより、交通事故や渋滞などの道路交通問題の解決を図る新しい交通システムのこと。日本では、政府を中心に1995年から推進されている。主に、渋滞情報と連動した高度なナビゲーションシステム(VICS)や自動料金収受システム(ETC)、バスロケーションシステムなどの技術がある。
お知らせ2  Live E!
気温や降水量、風速といった気象データを測定するためのセンサーを搭載し、インターネットに接続可能な気象観測ユニット「デジタル百葉箱」を各地に設置し、ネット上で自由にデータを利用できるようにしようというプロジェクト。地球環境に関する情報を流通・共有することで、さまざまなサービスを創造するとともに、地球環境保全への貢献を目指す。
お知らせ3  アメダス(AMeDAS:Automated Meteorological Data Acquisition System)
気象庁が開発し1974年から運用している地域気象観測システムのこと。降水量、気温、風向、風速、日照を全国約840カ所(降水量のみの観測地点を含めると約1300カ所)で観測する。平均すると降水量なら約17kmの間隔で観測所が置かれている。10分ごとに観測を行い、データは専用の電話回線で東京にある地域気象センターに集められる。
お知らせ4  村井さん
慶應義塾大学常任理事/環境情報学部教授・村井純氏
お知らせ5  交通流
交通の流れのこと。主に車の流れのことを指し、道路の渋滞や理想的な流通速度を解析するために利用される。
お知らせ6  RiSuPia(リスーピア)
Panasonicがプロデュースする、理数の魅力とふれ合うための体感型ミュージアム。詳しくはこちら。
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