ショートコンテンツ「ぷちむー」(東北新社)


 東北新社は、2003年から同社の若手クリエイターによるショートコンテンツ集『ぷちむー』の制作を行っており、2004年秋にすべてVARICAMで撮影された第2弾(7編)が完成した。
『ぷちむー』は同社のCMディレクター中島信也氏が命名したもので、プチ・ムービーを意味する。その名の通り、作品時間は“CMより長く、ショートムービーより短い”100秒を原則とし、撮影と編集の日数をそれぞれ2日間に限定するとともに、撮影にはHDを使うことが“ルール”となっているのが特徴。また、シリーズごとに作品テーマが決められており、2003年の第1弾は「2003の恋」、そして2004年の第2弾は「嘘」となっている。東北新社のディレクターはそのテーマをもとに企画を立て、プロデューサーを“逆指名”するカタチでスタッフ編成を決定する。技術サポートはすべてオムニバス・ジャパンが手がけている。完成した作品は2004年11月末にはDVD化され広告会社や業界関係者などに配布されるとともに、今後、携帯電話への配信などにも積極的に取り組んでいく考え。
第2弾では、撮影にVARICAMが採用されるとともに、これまでHD原版を最終形としていたところに加えて、フィルムレコーディングを行いHDとフィルムの両フォーマットでの原版制作を実施し、ワンソース・マルチユースへの取り組みを行っているのが大きな特徴となっている。
7編のうちの1編「なすび」の撮影を担当した東北新社・カメラマン秋田浩司氏に話を聞いた。

○VARICAMはフィルムのどのタイプに相当するのか
 『ぷちむー』は今回で第2弾となるわけですが、毎回“ルール”というものがあって、今回のシリーズはVARICAMを撮影で使用する、ということが前回と大きく違う点です。そのなかで「なすび」を担当したわけですが、モニター上で見て、どれだけ黒が表現できて、どこまでハイの部分が大丈夫か、といったことについて“VARICAMというのは「フィルムでいうとどのタイプに相当するのか」といったことをチェックしながら進めてみよう”ということを僕から提案しました。VEとの合言葉は「黒の世界」。
実際、その撮影で感じた率直な意見として、思った以上に黒が良く出ているな、ということを感じました。正直それはビックリしました。他のHD撮影システムと遜色ないな、と。僕にとって不満は無いですね。そして、やはりVEとのコンビネーションが大切、ということも再認識しました。
「なすび」の撮影はF-Recモード/24pです。バリアブルフレームレート機能によるハイスピードも活用するとともに、現場ではガンマコレクターを通してモニタリングを行いました。

○間違いなくデジタルによる撮影に移行していく
CM撮影の仕事ではHDは増えてきていて、現状はフィルムとHDの比率はかなり高まってきていると思います。VARICAMも、とくにハイスピードなどが必要なときは活用しています。HD撮影の多くは、テイク数が多くなるような撮影条件のときや、現場でのチェックが必要なときなどですが、そこはディレクターといろいろと相談しながら決めていきます。
CM撮影は、質感などの観点から現状、やはりフィルム撮影の方が多いのは確かですが、ここにきて、デジタル技術を活用した撮影システムのバリエーションが増えつつあり、CM業界でも使われるケースが増加しています。数年前は「フィルム撮影が主だったCM撮影にデジタル技術が入り込んできた」という印象だったと思いますが、現在は間違いなく共存の方向に移行しつつあると思っています。今後は間違いなくHD撮影などデジタルシューティングの方向に移っていく。それは誰もが感じているのではないでしょうか。
それに伴い、カメラマンの撮影に対するスタンスも変容してきています。シンプルにいうとVEのチカラが大きくなっていると言うことです。カメラマンとVEのタッグワークが重要になってきている。これまでは、現場の光や条件などをメーターで測定・設計し、アガリを経験値によって予測しながら作業を進めてきたわけです。もちろんこれからもカメラマンおよびDPは演出・企画意図に沿ったカタチでの映像トーンやライティングを決めていくポジションであることは変わらないと思いますが、HD撮影システムは現場にマスモニがあることによって、撮影映像のリアルな姿がそこにあるわけです。その場で確認して、その場で変えていくことができる。そのときVEというのは重要なカギを握っているわけです。カメラマンとVEのコンビネーションによって絵づくりしていくカタチ。現場でテレシネするように、かなり追い込めてしまうので、それはそれで、カメラマンとしては楽にもなるし、逆に大変でもある、と感じていますが…。
また、撮影現場にノンリニア編集システムを導入することで、仮編集、仮合成が簡便にできるので、時間の節約にもなるし、その映像があることによって、スタッフ間の共通認識などのコミュニケーションにはメリットがあると思います。カメラだけがデジタルというよりは、撮影システム全体がデジタル技術に移行していくことによるメリットですね。意見が言いやすい状況が生まれるわけですから、カメラマンとして「こういう絵になります」とみんなに伝えやすくなる。そこで納得してもらうことによって、次に進むことができる。その意味では、商品カットでもHDはとても有効だと思います。実際、僕はそういった使い方もしています。商品には厳密な色彩管理が必要ですから、クライアントの方々に、現場で確認して頂くことによって、安心感を持ってもらえますからね。
ただ、完成形もしくは完成形に近い映像が、現場にあることによってCM撮影であれば、クライアント、エージェンシー、プロダクション、そのほかのスタッフみんながその映像を見ることができるわけですから、そこで出る意見やアイデアというものをしっかりと方向付けしていく制作体制の構築も必要になってくると思います。
それと、パナソニックのカメラでいうと[AG-DVX100]も結構使っています。このカメラはすごく面白い。パナソニックのWebムービープロジェクト「THE FILE」のなかの1編「TAPE END」(監督:田中秀幸)でも使いました。
こうやっていろいろと、新しいものが出てくるというのは、それだけ選択肢が広がってくるということです。僕らは興味と柔軟性を忘れずに、新しいものを実際に使ってみて、それが演出や企画、映像トーンといった狙いとするところに適してるかどうか、を判断していくことが大切だと思います。