TVドラマ『「S・R・I」~嗤う火だるま男~』


 2004年秋、BSフジでオンエアされた『「S・R・I」~嗤う火だるま男~』は、全編VARICAMで撮影された。
同作品は、30年以上前に制作されたテレビ番組「怪奇大作戦」の現代版パイロットとして制作されたもの。当時の番組は16mmフィルムで撮影されており、今回のパイロット版では、オリジナルの持つ雰囲気を再現する狙いでVARICAMが採用されたという。F-Rec/30pで撮影され、CG制作はジーニーズ・アニメーション・スタジオが担当、技術サポートおよびポストプロダクションはバスクが行った。
円谷エンターテインメント プロデューサーの安西智氏と、撮影の下門照幸氏に話を聞いた。

○オリジナルの持つ匂いを再現
 安西氏:「怪奇大作戦」は、円谷英二監修のもと円谷プロの総力を結集し、35年ほど前に制作された特撮番組です。当時の「怪奇大作戦」のファンのイメージを大切にしつつ、新しい視聴者には新鮮味を感じてもらいたい。オリジナル作品へのオマージュを含め、当時の匂い、色合いをテレビで再現するという観点から、VARICAMの持つ表現力が有効だと判断しました。加えて、BSフジでオンエアすることイコール、ハイビジョンですから、必然的にHD納品に対応できる規格が必要でした。
下門氏:ラチチュードの広さをポイントに、ハイをコントロールしやすいことからF-Recモードを採用しました。もちろんV-Recモードでもニーカーブの調整でハイを収めることはできますが、室内が低照度な状況での窓外の再現については、検証の結果、F-Recモードを使って、後でガンマコレクターを通した映像のほうが、より16mmフィルムの見え方に近いと感じました。ただ、カメラの性能が良すぎるため、オリジナルのフィルムが持つ足の悪い感じが出しにくかった。やはり、暗部の黒には視聴者の想像力をかき立てるという良さがあるんですね。もう少し、黒を詰まった感じで表現できる機能があると良かったかなと思います。
また、ポストプロダクション工程におけるタイムコード管理の利便性から30pモードとし、一部回想シーンでは、通常のドラマパートと違った印象を与えるために、24pモードで撮影しています。
画のイメージは、DVDなどでリリースされているオリジナル作品の発色なり、トーンを参考にしました。ハイの収まりについては、F-Recモードでカバーできるので、黒を詰まり気味にして、なおかつ今のネガテレシネよりも発色を鈍くする方向でトーンを探っていきました。具体的には、オリジナル作品のマトリックスのままでいくと、赤の発色が鮮やかすぎる。そのため、赤をおさえつつ、その分、肌色の発色が悪くなるのを、赤と黄色のフェーズを調整することで肌色をキープするという方法をとり、少しでもオリジナルに近づけるよう試みました。

○VEと綿密な連携でクオリティ管理
下門氏:現場では、VEと各シーンの狙いのイメージを統一し、コミュニケーションを密に図りながらトーンを管理していきました。特に今回のような過密なスケジュールでは、カメラマン1人でモニターと現場を往復しながらトーンを管理するのは難しい。またVARICAMはラチチュードが広いとはいえ、やはりフィルムとは違いますから、現場である程度詰めておかないと、後処理で調整するには限界があります。現場でVARICAMのラチチュードを目一杯に使いながら、ビデオテープに収録する作業をするには、VEの存在は不可欠。最初にVEとトーンの方向を確認し、後はVEにゆだねたほうが現場効率も良いですし、トータルの仕上がりも良くなると思います。

○VARICAMの表現の可能性
 下門氏:VARICAMは今回を含めて何度か使っていますが、今までのカメラでは捨てざるを得なかったハイの部分を、画の中に取り込めるというのがとても優れているところだと思います。注文をつけるとすると、色再現がデジタルプロセスの割には、色再現の可変幅がまだ少ない。もう少しカメラ本体でカラーコレクションを大きく動かすことができるようになると、最終的な色の表現幅が広がる気がします。いずれにしても、テレビ制作で、もっとVARICAMの活用が浸透していけば、ビデオドラマの画というのも変わっていくのではかなと思います。
安西氏:映像作品をプロデュースするに当たり、媒体は何なのか、フォーマットは何なのか、を見極めたうえで、もっともパフォーマンスの高い機材や、ワークフローを選択することが大切だと思います。例えば大型映像で600インチのスクリーンに投影するだとか、今回のようにBSデジタルで放送するだとか、最終的なアウトプットを考えて何が相応しいのか、ということを導き出さないと、途中に無駄な作業が多くなったり狙いのことができなくなってしまう。そういった意味で、今回は作品の内容を含めて、VARICAMはベストチョイスだと思います。
もう少し準備期間があったら、もっと良さを引き出せたと思うところもありましたし、すごく表現の可能性も感じました。もちろん内容にもよるでしょうが、VARICAMは今後も使ってみたいと思わせるカメラでした。