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○3編をひとりのカメラマンによって世界観をつくる 朱プロデューサー:VARICAMを使ってみたいんだけど、どう?、と鍋島カメラマンに提案しました。3本それぞれ違う切り口の作品ですが、『TOKYO NOIR』という一つの世界観をつくる上で、一人のカメラマンの視点があったほういがいい、という判断から3本とも鍋島さんに撮影をお願いしました。 HDを撮影に採用するということについて、プロデューサーの立場としては当然バジェット抜きで企画を進めることはできないので、もちろんそのことは関係していますが、まず作品の設定として「夜」がメインなので夜間撮影が結構ある。そうなった場合、あまりライトをたかないで撮影できるのはVARICAMにメリットがあるかな、というのは大きいです。それと、ロケのシチュエーションとして非常に狭い場所での撮影が必要だったのでAG-DVX100を併用しました。両機種ともパナソニック製品なので互換性もいいだろう、と。 スタンスとして、基本的に作家性を大事にする作品をプロデュースしていきたいという想いがあります。そうなると機動性であったり、バジェット等のことを考えるとVARICAMは非常に魅力的なツールです。今後、上映環境の進展によって、HDで完成させることも可能性としてあるわけですから、撮影からHDを活用していくのはメリットだと思います。もちろん、作品の意図によって映像美などを追求する場合には、カメラマンと充分な検討を行った上で、柔軟に撮影システムの選択をしていきたいと考えています。 現状、表出しているデジタルの上映館がまだ少ないという課題点がクリアされていけば、圧倒的にVARICAMで映画を撮るという良さは際立ってくると思います。『TOKYO NOIR』はいろんな意味でVARICAMだから成立した作品という気がします。プロデューサーというどちらかというと一般の目に近いポジションから見る限り、VARICAM+DVX100の映像は「映画」としてちゃんと成立していました。 3編のうち「Night Lovers」は共同監督作品ですが、一番重要な役割を果たしたのは鍋島カメラマン。全く違うテイストの2人の監督の演出に統一感を持たせることができたのは、鍋島さんがいたからこそ。本当に両監督のアプローチはまったく違うものでしたから。
○本物の空気感とリアルな現場感 鍋島カメラマン:テレビやビデオ作品では、HD撮影の経験がありましたが、最終的にフィルムになる作品にVARICAMを使うのは初めてでした。これまでのVARICAMで撮影された映画作品などを観て、フィルムライクで表現されていて、これだけのクオリティがある、というのは感じていました。今回の『TOKYO NOIR』は、作品の狙いとして、本物の空気感とリアルな現場感というのがあったので、もし35mmで撮影した場合、“つくられた状況”になってしまうかな、ということは思いました。
○「東京の夜」の光をそのまま利用していく 『TOKYO NOIR』というぐらいですから夜の撮影がメインになるので、フィルムでも高感度フィルムがもちろんあるんですが、やっぱり低照度でも撮影できるメリットがVARICAMにはあるというのが決め手の一つでした。東京というのは光にあふれた街なんですが、普通映像をつくっていくとき、光に対してこちらがアプローチしていくわけですよね。制作サイドでコントロールしていく割合が多い。でも、今回は「東京の夜」の実際の光をそのまま利用しようという方向で臨みました。様々な空間、場所の光…ロケ現場にある本物の光をそのまま定着させることができればいいな、と。そういった意味で、VARICAMの高感度は映像を紡いでいく上で威力を発揮してくれました。 今回、VEは立てず、最初にメーターで絞りを決めて、その後はとにかく一切いじらない、コントロールしていません。モニターを現場に持ち込みましたが、あまり確認しませんでした。気分としてはフィルムの感覚。撮影モードはF-Rec/24pです。使用感は非常に使いやすかったというのが率直な感想です。フォーマットはビデオですが、フィルムカメラと似た感覚でした。 実際に使ってみて、一つだけ注文をつけさせてもらえるとすれば、「夜」の全体的な雰囲気は非常によくとらえられていると思うんですが、細かいところで黒のノイズというか粒子感が強く感じすぎるかな、と。もう少し締まってくれるといいな、と。もちろん、そういう絵がふさわしい場合があるとは思いますが…。 今回VARICAMでやるのが一番良かったと思っています。いろいろな演出意図もあり、例えば役者さんの良い表情が出るまで1時間回しっぱなしにしたり…。そういうことが可能だったのは良かったですね。普段では撮れないものが撮れたりもしましたので。
○カメラマンがカメラを育てる 監督とカメラマンはよく“夫婦”に例えられたりするんですが、カメラマンとカメラは“親友”であって欲しい。こちらの思っていることを実現してくれたりもするけど、ときには喧嘩もする。カメラマンがカメラを育てるし、逆にカメラにカメラマンが育てられることもあります。その意味で、VARICAMは「転校生」みたいな感じで、どういう人なんだろう?という興味があった。で、使ってみたら意外と良いヤツだった。人間関係もそうですが、親しくなるにつれて人となりが分かってくるように、もっと一緒に付き合う時間が長ければ長いほど、関係性は良くなっていくのかな、と期待しています。