TVドラマ『八つ墓村』


 2004年秋、フジテレビ系列でオンエアされた「金曜エンタテインメント『八つ墓村』」は、全編VARICAMで撮影された。同作品は横溝正史原作の探偵。金田一耕助もののミステリーで、同じドラマ枠で今春放送された「犬神家の一族」に続き、主演・稲垣吾郎の“金田一”シリーズの第2弾。前回同様、横溝正史の独特な世界観を表現するため、VARICAMが採用された。今回はF-Recモードにより720/30pで撮影され、HD原版が作成された。演出は前作と同じく星護氏。撮影から編集、MAまでの技術サポートは、バスクが務めた。
照明の田中雄哉氏、VEの阿部友幸氏に話を聞いた。

○おどろおどろしさ、黒をベースとした画作り
 田中:『八つ墓村』の撮影にあたり、監督からは、原作の持つおどろおどろしさ、不気味さを表現するために、暗い雰囲気というか、「黒色」を基調とした画作りをしようという話がありました。普通、テレビは映画と違い、家庭によって視聴環境も違いますし、明るく作るのがセオリーですが、今回はそういった観点からは一歩引いて、あえて見えにくくてもいい、と。ですからライティングも、見え過ぎずに「恐怖感をあおる」ようなトーンになるように照明設計を考えました。
阿部氏:VARICAMの採用は、僕ら技術サイドから提案しました。この作品に入る前に、バスクとして初めてF-Recモードによるドラマ撮影を行った経験を基に、ラチチュードの広さや任意のガンマ設定などの機能特性を活かすことで、『八つ墓村』の持つ独特な世界観が描けるのではと考え、F-Recモードを採用することにしました。

○撮影現場で画を完成形に追い込む
田中氏:僕自身、全編通してVARICAMを使う撮影現場は初めてだったのですが、今、あらためて振り返ってみると、暗いトーンを意識したライティングは、VARICAMだからこそできたものだと思います。今までのビデオカメラの場合、ラチチュードなどの観点から、どうしても黒レベルを持ち上げて撮影するため、結果として上がりの映像はソフトなイメージになってしまう。その点、VARICAMは、黒の締まりに優れているため、多少強めのライトを当てても十分に狙いの画を撮ることができました。
阿部氏:撮影当日の天候など環境に合わせて、シーンごとにガンマカーブの調整を微妙に変えました。VARICAMは、ガンマコレクトとの組み合わせによっていろいろな表現ができますし、F-Recモードのカーブをベースに変えていくことができるので、いつでも基本に立ち返ることができるのがメリットだと思います。
田中氏:現場では、阿部君が作った画を見せてもらい、それを基に照明を作っていきました。僕のほうでもある程度プランは用意していますが、実際にモニター出ししてもらった映像に対して、一番良い方法をセレクトしていきました。もちろん僕らから提案し、調整してもらうこともありました。HDカメラは、監督の要望にもすぐに応えることができますし、今までよりもスタッフ間とコミュニケーションしやすくなった印象を持ちました。
阿部氏:そうですね。VARICAMは今まで使ってきたカメラに比べて、現場でかなりのところまで詰めることができます。監督の要求に応えられる幅も広がったと思います。その場ですぐにリアクションできますし、特にスケジュールが過密なドラマ制作において、VARICAMは有効な機材だと思います。今回は、後半に鍾乳洞が見せ場としてあり、ロケとスタジオに建て込んだセットで撮影したのですが、そうしたシーンのマッチングを含め、ほぼ現場で追い込むことができました。

○表現領域が広いクリエイティブなカメラ
 田中氏:SDからHDへのフォーマット変化による画角の違いは、ライティングする上で大きな影響があります。4:3から16:9あるいは13:9から16:9へとワイドに広がった分、カメラの被写界から逃げなくてはならないスペースが大きくなる。照明もカメラと同じように“入りたいアングル”があるのですが、例えば画角で10cm、20cmの差が、現場レベルでは50mの違いになって、想定していた場所でライティングできないケースが出てきます。特に今回は、ズームなどではなく広角の画作りをテーマにしていたので、照明のスペースの問題などを含め、カメラマンとは密に打ち合わせをしました。
HD、VARICAMになっても、照明機材を含めて、基本的なライティングの考え、方法に変わりはありませんね。もちろんVARICAMの低光量性という特性から、ナイトシーンではゲインをあげてもらったり、いろいろな調整の上、今までより少ない照明機材で対応できましたが、VARICAMは表現力が高い分、それを活かすには、やはりある程度の照度は必要です。そういった意味で、照明の作り込む余地が広い。作り込めば作り込むだけ、VARICAMならではの映像が引き出せるのではないでしょうか。
阿部氏:VEは、現場でイメージを創り上げ、ポストプロダクションに橋渡しをする役割だと思います。VARICAMは、その媒介として有効に機能しているのではないでしょうか。VARICAMは、ガンマコレクトとの組み合わせでカーブは無限にあります。また色に関してもガンマコレクトはRGBも動かすことができるため、カメラ標準の色とガンマコレクトで作った色を組み合わせて違う色を表現できたり…と、まだまだやってみたいことがたくさんある。クリエイティブなことが試せるカメラだと思います。