最高の仕上がり(シンガポール)


 シンガポール制作のインディーズ映画『Clouds in My Coffee』が、2004年8月にシンガポールで公開された。『Clouds in My Coffee』はアジア圏の保守的な地域の聴衆には向かない性的な描写が含まれていることから、批判的な批評もあり、ちょっとした物議をかもし出した作品となった。
制作プロダクションはリバーサルフィルム社が手がけた。監督・脚本はGallen Mei氏、プロデューサーはCindy Ng氏とMui Chee Cheen氏、撮影監督はFoong Tong San氏、編集はMelanie Foo氏がそれぞれ手がけた。

 John Lei氏(リバーサルフィルム社):この映画は商業的であるけれど、同時にメッセージをはっきりと伝え、ちゃんとシーンを描写した作品なんだ。

 Lei氏はこの映画で、シンガポールで一般的に理想とされる女性が男性からどのように扱われているかを、98分という時間のなかで描いている。大学を卒業した3人の美しい女性がその後に送る生活を追い、セクシャルハラスメントや猥褻行為、虐待、不貞などの社会的な問題を扱っている。
監督を務めたGallen Mei氏は、ファッション写真家から撮影技師、そして映画監督に転身し、ここ10年間アメリカを拠点に写真やTVコマーシャル、脚本、映画監督などの仕事を行っている。この『Clouds in My Coffee』は「Left of Centre in California」に続く2本目の監督作品となる。

 Lei氏:女性がとても不公平に扱われているということがきっかけでこの作品のコンセプトとアイデアは生まれました。それに、アクションやホラーやSFでない面白い映画を作りたいという思いもあった。女性の映画ということでほとんどがセリフだし、シーンのつながりなど、作品という形にするには難しい面もありました。

 一方、現実的な問題として、低予算で、しかも映画制作にはつきものの撮影進行を妨げるトラブルを乗り越え、どうやってこの作品を完了させたのだろう。

 Lei氏:普通のTVコマーシャルより安い予算しかなかったというのが正直なところ。予算内で制作するにはデジタルという選択肢しかなかった。
そこで製作チームがメインカメラに選んだのは[AG-DVX100]。映画のセットのなかでは、16:9シネマスコープ・コンバーターを付けて撮影が行われた。これを付けると「クロマ調整がバッチリの、フィルムさながらの25pモード(PALモデル)」(Lei氏)で撮影することができる。

 Lei氏:Mei監督にとっては初めてのデジタル映画だったから、最初はすごく不満そうだった。だけど、2日目になって、持ち運びやすくて加工しやすいというデジタルの良さに気づいたみたいで、やっと機嫌が直ったよ。フィルムだと11分ごとに新しいフィルムを入れないといけないけれど、デジタルだと60分間ノンストップで撮影できますから。
2人のレズビアンがプレスにインタビューを受けるシーンではグリーンがかった色味にしようと提案した。このシーンを印象づけ、役者がいかにもレズビアンという演技をしなくても、見る人にレズビアンだと思ってもらえると考えたんだ。

 Lei氏のアイデアを実現するため、Mei氏は撮影監督にFoong Tong San氏を招いた。CM撮影の経験が豊富なFoong氏であれば、Lei氏の求めるシンプルかつ興行的にも印象に残る絵づくりをしてくれる、というのが狙い。

 Lei氏:Foong氏は食品撮影のエキスパートだから、彼のライティングで長編映画を撮るのは面白いと思った。結局、彼はこちらで用意した照明機材はなにも使わなかった。

 クルーが事前の準備をしっかりしたことによって撮影は非常にスムーズに進み、『Clouds in My Coffee』は16日間で撮影が完了したという。クルーは事前にこの予算でどこまでやれるかを綿密に打ち合わせし、予算が少ないからといって、決してクオリティを落としてはならないということを確認し合った。撮影終了後、作品の一部をピーチブラックにおいてアップルのPowerBookと2台の外付けハードディスクで編集した。

 Lei氏:作品の仕上げとして、かなりの場面転換とシーンの削除を行った。特殊効果のCGはコインを空に投げ上げる場面のたった1シーンだった。

 この映画の興行成績がどうなるかはわからないが、リバーサルフィルムは作品の仕上がりに非常に満足しているという。

 Lei氏:『Clouds in My Coffee』は、撮影も試写もすごく楽しかったし満足している。今後もデジタルで撮っていきたいと考えています。今回が初めてのデジタル撮影になったんですが、撮影してみてデジタルならではの良さをたくさん実感しましたた。まず、低コストなのが一番だね。低コストだから撮影を続けられたし、映像をコントロールして思う映像を撮ることができたから。