夢を作るもの(シンガポール)


 世界中のデジタル映像作家たちが、観客やスポンサーが自分たちの仕事を重要視してくれないと嘆いている。デジタル制作には「従来の映像の雰囲気がない」というのがその理由だが、では「従来の映像の雰囲気」とは一体なんだろう?
その答えを最新作『コーヒーに浮かぶ雲(仮題)』を[AG-DVX100]で撮影したシンガポールを拠点とする映像作家ReversalFilmsのGallenMei氏のインタビューから探ってみることにした。

 Mei氏:映画館で見る映画はちょっと荒い、かすんだような画面だけれど、テレビのニュースはシャープな映像になっている。デジタル映画制作はニュースと同じくビデオで撮影しているものです。

 違って見えるのは、映画が秒間24フレームで撮影し、ビデオが秒間30フレーム(NTSC)または秒間25フレーム(PAL)で撮影されているからだという。リアルな感じが必要なニュース映像にはビデオが向いているというわけだ。しかし長編映画をシャープな映像で撮ると途端に素人っぽくなってしまう。

 Mei氏:見た目だけにとらわれるなんて本当にばかばかしいね。いい脚本をいい俳優が演じれば、どんなメディアで撮影しようと、いい映画になるはずなのに。

 大手製作会社は別として、設備と予算に制限のある多くのフリーの映像作家は、どのメディアで製作するかを常に模索している。この映画制作の現状を見て、パナソニックは秒間24フレームで撮影できるAG-DVX100を作った。映像のプロ向けの、究極のハンディカメラを提供しようというのだ。これを聞いたMei氏は次の新作をどうしてもAG-DVX100で撮影したくなった。

 Mei氏:フィルムのような画面が欲しかったら、作り手はフィルムで撮影する。ただ、コストがかかりすぎるのが問題。

 デジタルビデオで撮影するのと、フィルムで撮影するのでは、コストは雲泥の差。デジタルビデオテープが平均10シンガポールドルである一方、35ミリフィルムは1本何百ドルもする。

 Mei氏:秒間24フレームで撮ればフィルム風になると思っている人が多いかもしれないけれど、AG-DVX100では秒間24フレームで撮影するというより、シネ・マトリックスかシネガンマ機能を使うことでフィルム風になる。たとえ秒間30フレームで撮ったとしても、シネ・マトリックスかシネガンマ機能を使えば、フィルム風になる。

 彼は、デジタル撮影では決して妥協ではなく、むしろそのほうがよい作品ができると考えている。

 Mei氏:デジタルで撮れない映像がある、というのは本当のこと。特に照明条件が変わったりすると、十分な被写界深度がとれなかったり、焦点が一定に保てなかったりする。しかし、DVカメラは小さくて機動性に優れている。焦点が合っていなかろうと、多少照明が違っていようとかまわない大胆な撮影向きで、実際リアルな映像が撮れる。コンパクトで目立たないから、被写体が自然に振舞えるという利点もある。そういうタイプの撮影には本当にぴったりだと思う。逆に、小さなDVカメラでないと撮影できないものもある。前作でビルから飛び降りる人物を撮影したんだけれど、フィルム撮影用カメラでは撮影するのは無理だった。危険なシーンや、変わったアングルで撮りたいときなどにもDVカメラを使っている。
AG-DVX100の25pプログレッシブスキャンモード(PALモデル)で撮影した映像は、フィルムとまったく同じというわけではないが、普通のビデオカメラとは明らかに違う美しさを持っている。通常のビデオ映像はどこか立体感なく見えるが、16ミリフィルムで撮ってビデオに変換したようなキレのある画面になる。機能を考えれば当然のことだが、発売前にこれほど騒がれた製品は他にはない。

 ※この文章は雑誌「ASIAN Photography」(東南アジアの発刊誌)より抜粋しています。